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希死意無ハウス

多分絵とかクソSSとか作る。

私達の行く先は天ではなかった。

第壱話 別火光の場合③

わたしには別火寿希(ひさき)という名の弟がいる。
寿希は生まれつき重い病気にかかっており、家にも学校にも行けない状態となっているのが現状だ。
うちの小さいクリニックでは設備が足りないため寿希はここから隣の町の大きな病院、『志名利(しなり)病院』に入院している。
ちなみに父さんと院長は旧知の仲であり、その関係で寿希のぶんの病室が確保できたという話を聞いているが……それについてはあまり良い話には感じられない。
寿希とは昔、一緒にかけっこをしたりブランコをしたりと様々遊んだものだが、年々病状が悪化していき、対症療法が見つかる頃には足はピクリとも動かなくなっていた。
つまり、下半身不随というやつだ。
現時点の医療では完治させる方法がなく、点滴で症状を食い止めるのが精一杯だ。
このままではもしかしなくてもあいつはもう一生車椅子生活だろう。
だが、わたしは光を与える者として勉強を頑張って医師になり、研究者になり、あいつを治してやりたいと心からそう望んでいる。
選ばれたわたしなら、能力のあるわたしなら、絶対にあいつを治せるとそう心から信じきっているのだ。
無謀だろうか?……無謀だろうな。
しかしそれでも、寿希のためならわたしはどんなに犠牲を払っても助けてやりたいと思っている。

学校は概ねいつも通りだった。
例えば、友達がノートを見せてくれと頼んできたことなんかがそうだ。
もちろん「このわたしの素晴らしさに免じて」見せてやった。実際そんなことを思っていたわけではないが、多少大げさな方がわたしの眼帯も喜ぶだろう。
それと、教える側の方が身につくのが早いと言うし……その点においてもこれはWin-Winだっただろうな。
他には、別の友達との成績勝負に勝ったことくらいか。わたしにはこれくらいしか出来ることがないしなというそんな気持ちを抑えてわたしはこれまた大げさなまでに喜ぶことにした。
お礼・打ち上げとしてそれぞれ二人から放課後にカラオケに誘われたが、それは断った。
わたしには放課後やることがある。いつ誘われてもそれは同じだろう。
この点についてだけはノリの悪いやつだと思われても構わない。放課後、わたしは寿希に会いに行くのだ。

ここから自転車で志名利病院までは約三十分。地味で暇な時間。
そんな時にはアレを呼ぶ。なんたって人気のない道なのだから。
「苺の妖精、見ているんだろう? 少し話さないか?」
自転車を漕ぎながら天へと叫ぶ。するとまもなく三つ編みにおさげをした赤髪の幼い少女が苛立ちを顕にしながら天から舞い降りてくる。それも、羽の生えているようなやつ。
「なんだってのよ! 暇つぶしで呼ばないでくれる!?
あとねぇ、わざわざ毎朝苺ジャム選ぶの気持ち悪いんですケド!」
いるかとしか聞いていないのに甲高い声で色々と喚いているこいつこそが苺の妖精、ストべ。
なんでもわたし(と世界に一握りの逸材)しかこいつの姿を拝むことはできないらしい。
「何よその優越感丸出しの顔! ホンットに腹立つんですケド!
ってか止まりなさいよ! なんで止まるとかしないわけ!?
ねぇ! ねぇってば!!」
「まぁまぁ、病院まで付き添ってけって。寿希にゃ見えないだろうけどついて行ったら喜ぶぞ、多分な」
「ハァ!? 行くとしても病院の前までよ、馬っ鹿じゃないの?!
人前であたしと話すつもり? 気でもおかしくなった?
まー、あんたがおかしいのは知ってるけど!」
「わかったわかった、その騒がしさで道中気が紛れるからよ。病院前までよろしくな」
こいつは性格こそあまりわたしが得意とするタイプではないが、こいつの存在こそがわたしを選ばれた人たらしめるわけで。それに呼べば来てくれるというのも大変素晴らしい。
正直こんなことのために呼ぶのは悪いとも思ったが……なんだかんだ来てくれるのだから少しありがたいような気はする。


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2023/02/16 up

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